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「アルChu〜! お酒は二十歳を過ぎてから」 01



「羽衣ちゃーん、羽衣ちゃーん」
 あけましておめでとうございます。本年も、
「羽衣ちゃんてばー、お腹へったー」
 本年こそ……。
「おせち食べたいなー、おーせーちー」
 ううぅ。
「お母さん、おせち嫌いじゃないですか」
 こたつで寝たままのお母さんに新年早々、少しだけ怒ってしまいました。私だって、お正月の朝ぐらい厳かに過ごしたいのです。
「ちぇー羽衣ちゃんのケチンボ。食べるのはキライでも見たいのにー。ほら言うじゃない、日本食は目で食べるって」
「食べなかったらもったいないです。お雑煮作っておいたから、電子レンジで温めて食べてくださいね」
 本当はキチンと火にかけた方がおいしいと思いますが、そそっかしいお母さんには危険過ぎます。電子レンジでも、本当は少し心配なぐらいです。
「にょー、どっか行くの?」
 声がくぐもっているのは、こたつに深くもぐったからでしょう。暖房器具がこたつだけなので、部屋の空気は冷たいままです。
 私は鏡の前で着物の帯と格闘しながら答えました。一人で着付けをするのはなかなか難しいものです。
「滝沢さんと、合歓木神社に」
 昨日の夜に言ったはずですが、お酒を飲んでいたお母さんは記憶にないようです。いつものことなので気にしませんけどね。
「いーなー」
「行きますか?」
「めんどーい」
 お母さんはこれでも私が通っている学校の先生、しかも私のクラスの担任なのです。だらしがないのが家だけならまだしも、学校でも同じ感じで……恥ずかしい。神様に頼んで、もう少ししっかりしてもらいたいです。

 それにしても、お友達と初詣に行くのは私にとって初めてのこと。しかも晴れ着を着てのお出かけ。眠いですけれど、とても楽しみにしてました。
 大掃除(と言っても狭いアパートですが)で見つかったお母さんの古い着物をもらったので、縫い直して私のサイズに合わせたのです。派手なピンクな着物ですが、お正月ぐらい良いですよね。
 滝沢さんが来る前に、着物を……。

 ピンポーン
「羽衣ー」
 ピンポピンポーン
「あけおめー」
 ピンポピンポピンポーン
「開けろってばー」
 ううぅ。
「開けますから待ってください」
 締めている途中の帯を引きずりながら、玄関の扉へ慌てて向かいました。お正月の厳かな雰囲気とは、一体どこにあるのでしょう。
 そして……チェーンを外してスチールドアを開けたところで、垂れていた帯につまづいてしまいました。

「わわわっ」
 倒れ込んだ場所は、滝沢さんの胸の中。何はともあれ、まずは新年の挨拶をせねばなりません。
「あ、あの、滝沢さん、えっと、あけましておめでとうございます。すみません、大丈夫でしたか?」
「大丈夫じゃねえのは羽衣の方だろ。ま、とりあえずあけおめ」
 あけおめ……。
「なんだよ、正月からしけた顔してんなあ。行こうぜ神社」
「すみません、もう少し時間をいただけますか」
 引っかかってしまった帯をハタキながらお願いしました。滝沢さんは「じゃ、おジャマするぜ」とブーツを脱いで家に上がりました。
「千鶴センセ、あけおめ」
 そうです、うちのお母さんは大賀千鶴といいます。
「ことよろー、ますみん」
 ますみんこと滝沢真澄さんは自由奔放な方なので、お母さんに挨拶をすると早速こたつでくつろいでいました。いつもと同じいかつい洋服に、キレイに色を抜いた金髪が輝いています。
 ちなみに滝沢さんは私のクラスメートです。だから、お母さんが担任の先生なのです。学校ではあまり評判のよくない滝沢さんですが、お母さんとは仲が良いみたい。少し似ているところがあるからでしょうか。

 滝沢さんがなぜかお母さんと一緒に年賀状の仕分けをしながら話しかけてきました。
「年賀状少ねえなあ。何枚出したあ?」
 私は帯の端をタンスの引き出しに挟んで、くるくると回りながら帯を締めてみました。うまく行きそうです。
「えっと、クラスのみなさんと、お世話になっている方々と、小学生の頃の同級生と……。いつも、何日か過ぎてから返って来ますから。みなさんお正月で忙しいと思いますし」
「って忙しいも何もなぁ。しかも全部は返ってこないだろ。律儀だなぁ。ま、あたしゃ出してもないけどよ。喪中ってことで」
 ふすまの陰で回るのをやめ、こたつの方に向き直りました。どなたかが亡くなったというそぶりもなかったので、滝沢さんにも年賀状を出してしまいました。
「あ、すみません。その、お悔やみを……」
「ウソウソ。誰も死んじゃいないけど、喪中ってことにすれば楽じゃん」
 ううぅ。
 滝沢さん、ひどいです。

 少しの沈黙。

「羽衣」
 振り向いたとたんに、引き出しに挟んでいた帯の端が落ちてしまいました。もう少しで完成だったのですが。
 少し残念な気持ちで滝沢さんを見ると、私をにらんでいるように見えました。本当のことを言えば、少し怖いです。
「あの、何でしょう」
 おそるおそる聞いてみました。外見で誤解されがちですが、滝沢さんは優しい方です。怒るとしたら私が悪いのです。心臓の音がドキドキと痛いです。せっかくお友達になってもらえたのに……。
 すると、滝沢さんは急に笑顔になって続けました。
「そんなおびえんなって。帯締めるの手伝って、とかさあ、言ってくれよな」
「あっ」
 私はビックリしてしまいました。
 思いつきもしませんでした。
 手伝ってもらうだなんて。
 本当にビックリしてしまったのです。
 今度は、胸が痛くて、熱くて、少し泣きそうになりました。
「……」
 顔を背けた滝沢さんが、ミカンをいじりながら何かつぶやきました。
「あの、今、なんて……」
「うるせぇ。ほら言え、手伝えって」
 戸惑っている間に、滝沢さんは立ち上がり私の後ろへと回りました。あまり器用とは言えませんが、しっかりと締めてくれています。少し苦しいぐらいに。
「おい、苦しいなら言えよ。言わねーと分かんねぇんだからよ」
 いつもよりぶっきらぼうに感じましたが、いつもより温かく感じます。
「えっと、少し、苦しい、です」
「うるせぇ。行くぞ」
 うぅ、せっかく言ったのに。
 行ってきますの声に、いつの間にか二度寝をしていたお母さんが、こたつから手を出して振ってくれました。
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[小説(連載)]--本編1章 | permalink | comments(0) | -

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